レコーディングエンジニア グレゴリ·ジェルメンさん × 池村雅彦先生(副校長)

いい演奏をしてもらうことが、
僕らの仕事

 エンジニアの第一人者として走ってきた池村雅彦先生と、現在第一線で活躍するグレゴリ·ジェルメンさん。数々の有名アーティストをサポートしてきた二人は、この仕事に誇りを持っています。フランス在住時代、日本の音楽に刺激を受けて来日したグレゴリさん。まさに“未知の国”へ飛び込んで、大きく羽ばたいているのです。

日本の音楽がとても衝撃的で、
「この国でエンジニアになりたい」と

池村:グレゴリくんがこの学校を志望した理由は、なんだったの?

グレゴリ:最初はいろんな学校を見たんですが、オープンキャンパスでこの学校を訪れたんです。学生の雰囲気がよかったのと、機材の充実ぶりを見て、ここに決めました。

池村:この学校は、プロの現場で使われているものを揃えているから。コンソールの使い方も、ちゃんと一から教えるしね。

グレゴリ:入学する前にいろんなステップがあって、そこで確か池村先生とお話しする機会があったんですよ。その時、僕が最初に聞いた質問は「日本で就職できると思いますか?」(笑)。

池村:アハハ、そうだったね。

グレゴリ:「どうしたら、就職できますか?」と聞いたのを覚えています。

グレゴリさん × 池村副校長

池村:そう、グレゴリくんは入学前から「日本で就職したい」という意志が明確だった。グレゴリくんに限らず、学生から「就職できますか?」と質問されることは、とても多いね。私はもちろん「絶対できるよ」と答えています。当たり前のことですが、就職を希望する学生さんが、希望の業界へ就職するのは、この学校のミッション(使命)だし、僕もその自覚が常にあります。

グレゴリ:僕はフランスにいた高校時代から日本のポップスを聴いていて、「この国の業界で仕事をしたい」と思ったんです。日本の音楽を聴いたのは、たまたま友達からCDを貸してもらったからなんですけど、すごい衝撃を受けました。それまではUKやアメリカ、ヨーロッパなどの音楽ばかり聴いていたから、アジアにこんなに大きな市場があることを知らなかった。その前からエンジニアになりたいと思っていたので、「日本で仕事をしたい」と思いました。

池村:今はインターネットなどが普及しているから、日本から世界へ発信することが増えたけど、グレゴリくんの高校時代はあまり知られていなかっただろうね。

グレゴリ: ミステリーですよ(笑)。他の人はUKやアメリカ志向が強かったけど、僕は「もっと違うマーケットを歩みたい」と思っていたんです。フランスでも一度、短期の音楽関係の学校へ通ったんですが、その後に日本へ来ました。

池村: なぜ、エンジニアになりたいと思ったの?

グレゴリ: 高校の時に“トリップ・ホップ”というジャンルが流行ったんですが、すごく革新的なサウンドメイキングだったんです。「どうやって作るんだろう」とCDのクレジットを見たり、関連する本を読み始めました。そこから、「こういう仕事に就きたい」と考え始めたんです。

        

「どうすれば歌いやすいか」を考えるのも、
エンジニアの仕事のひとつです

グレゴリさん

池村: 日本語がうまいけど、どうやって覚えたの?

グレゴリ: この学校へ入学する前に、日本語学校に通いました。そこで基礎を作って、専門学校へ入るために「日本語能力試験」という試験を受けました。これに合格したら、入学許可が取れるので。

池村: 学校の授業は、どうだった?

グレゴリ: 池村先生の授業、覚えてますよ。池村先生はアナログ時代を経験しているエンジニアだから、昔ながらのやり方を教えてくださって、勉強になりました。

池村: デジタルでもアナログでも、エンジニアに共通するのは「どうすれば、歌い手が歌いやすくなるか」を思いやること。僕が学生によく言うのは、「いい演奏や歌唱をしてもらわなければ、いい録音はできない」ということです。例えばスタジオを掃除することだって、その一環ですよ。スタジオがキレイなら気持ちがいいから、いい演奏ができる。そういうことを、僕は伝えたいんだよね。

グレゴリ: 池村先生の教えはすごく正しかったと、プロになってからも実感しています。

池村: 最近は学生にも、グレゴリくんのような留学生が増えたよ。

グレゴリ: レコーディングの技術がまだそんなに優れていない国もありますよね。アジア諸国で見ると、やはり日本は最先端の技術を学べるからだと思います。僕の時も中国の人や、スリランカの人がいましたよ。

池村: 学校生活は、楽しかった?

グレゴリ: すごく楽しかったです。当たり前のことですけど、同級生がみんな日本語を話すから、言葉の勉強になりましたし、「日本の学校へ通う」という環境が、僕の中では新鮮でした。

池村: この学校では、普段の授業の他にプロジェクトがあったり、外部の人のお手伝いをする機会もあるから、いろんな経験ができるでしょう。

グレゴリ: そうですね、僕もプロジェクト『明日への扉』※1のライブレコーディングに参加したり、学園祭で在校生のCDを作ったりしました。これも、いい思い出になっています。

池村: グレゴリくんは在学中から、レコーディングスタジオにインターンシップ ※2をしていたんだよね。

グレゴリ: そうです、3年生の時に。そこでプロとしての地固めができた感じですね。

池村: 日本で留学生が就職するとなったら、ビザが必要なんでしょ?

グレゴリ: もちろんです。就労ビザはガイドライン通りに書類を揃えて、入国管理局に申請すると、取得出来ます。日本で就職活動をする際に、しっかりと自分で調べて準備する事が大切です。

  • ※1.明日への扉→骨髄移植推進キャンペーンミュージカル。
  • ※2.インターンシップ→実際のプロの現場で仕事を体験する制度。

“名盤”と言われるものは、聴いておくべき。
ドメスティックの音楽も、同様です

グレゴリさん × 池村副校長

池村: この業界を目指す人は、学生の頃からたくさん音楽を聴いてほしいよね。ジャンル問わず、いろんなものを。そして、生のライブを多く見ておいてほしい。あと、“名作”と言われているもの……、音楽だと“名盤”と言われるけれど、そういうものをなるべく聴いておいてもらいたい。売れているものにはやはり、人を感動させる何かがある。だから“名盤”と言われるわけです。プロとして音楽をやっていく場合は、やはり売れるものを作らなければいけない。そのためには、高校生の頃から感性を磨いておいてほしいと思う。よく学生から「どんな機材を買っておいたらいいですか?」と聞かれるけど、その前にまず、自分の中の財産を貯めておくことが大事だね。

グレゴリ: 僕もそう思います。あとは、学生の頃は技術的なことにフォーカスしないほうがいい。学生がそういう質問をする気持ちは、よくわかるんですよ。僕もそうだったし。でも技術的な面が実際現場で必要になってくるのは結構遅い。学生になって、就職して、研修して、アシスタントを経験したあと、そこから必要になってくる。だからまずは、自分の知識を深めるためにも音楽をたくさん聴くことですよね。今の音楽、昔の音楽、そして国内外問わず。エンジニア志望の人って、洋楽ばかり聴いていて、意外とドメスティックな音楽を聴いていないんですよ。でも制作現場に携わるのは、結局ドメスティックなもの。だから日本で何が売れているのか、どんな名盤があるのか、聴いておいたほうがいいと思いますね。

池村: そう、食わず嫌いをせずにいろいろ耳に入れてほしい。

グレゴリ: あと、現場に入ってから、音について学ぶことの大切さに気付く事が本当に多いです。

池村: 部屋の中でなぜ音が響くのかとか、同じマイクなのに立てる場所によってどうして音が違うのかとか、そういうことね。

グレゴリ: そうです。実際に現場では技術面とは別で、とても重要です。

池村: 音について学んでおくことは、絶対に無駄にならないからね。例えばドラムだって、スネアはいい音がする、シンバルもいい音がする、バスドラも大丈夫。でも全部一気に叩いてみると、バスドラのキックの音がモヤッとしたりする。それは音のかぶりや位相の関係が原因なんですよ。勉強としてはあまり面白くないことだけれど、実際に現場へ出てみると、音のことを知っているととても役に立つから。

グレゴリ: 頭の中に、インプットしておいたほうがいいですよね。いつか、必ず役に立ちます。何年か経って、学校の教材を開いたら「これか!」と思いました。

池村: 若いうちはどうしても機材や技術に走ってしまいがちだけど、プロになってから学校の基本的な勉強の必要性を実感するでしょう。

グレゴリ: そうなんですよ。卒業してから「あ、これは学んだことだ」と気づくんです(笑)。

スクランブル交差点に飾られたジャケット
嬉しくて、すぐFacebookにアップしました

池村: プロになって、一番嬉しかったことは?

グレゴリ: 渋谷のスクランブル交差点に、大きな宣伝スペースがあるじゃないですか。ある日、渋谷に行ったら、僕がレコーディングしたCDのジャケットがそこにボーンと掲示されていたんです。「いつかあの大きな看板に、ジャケットが飾られたらいいな」と思っていたけど、なかなかその機会が訪れなくて。やっと実現した時はすぐ写メを取って、Facebookにアップしましたよ。

池村: 信号待ちをしている隣の人に、「あれ、私の仕事なんですよ」って言いたくなるよね(笑)。私もやっぱり、ジャケットに名前が載った時は嬉しかったなぁ。そう考えると今は、CDじゃなくネットで曲を直接買う時代だから、スタッフクレジットがないのは寂しいね。

グレゴリ: それは寂しいですよね、本当に。

池村: あとはやっぱり、自分の関わった作品が街で流れてきた時は、すごく感動した。マスコミで流れる曲に携われるようになると、「ワンステップ上の場所に来たんだな」と実感できて、充実感が得られたよ。グレゴリくんは、逆に大変だったことはある?

グレゴリ: アシスタントだった頃に、憧れのアーティストの仕事に携わりたくて……、でもその人は業界のエンジニアがみんな怖がっているくらいストイックで、技術的にレベルの高いことをやっていたんです。その人に関わっていた先輩が辞めることになり、「次は誰がやるの」という話になった時、僕が立候補して。いざ現場に臨んだところ……、何もできなかった。スタジオにいる全員の「何やってんの?」という視線が僕に集中しましたね(笑)。

池村: でも今となっては、「エンジニアはグレゴリくんで」と指名が入るほどだと聞いたよ。

グレゴリ: そう言ってくださる方もいますね。エンジニアとして、とても嬉しいことです。

池村: いい意味で、覚えてもらえることは重要だよ。何よりも、この業界を目指す人に伝えておきたいのは、年齢関係なくできる仕事と、できる時期の限られている仕事がある。音楽やレコーディングの仕事は、やはり若いうちから始めておきたい職業。本当にやりたいのであれば、早くから始めるべきだと思います。人生、一回しかないんだからね。

グレゴリ: 僕の時代と池村先生の時代では、レコーディングのやり方がすでに全然違ったし、これからまた変わっていくと思う。学生の頃から常に勉強するクセ、新しいことを知るクセをつけておいたほうがいいですよ。新しいソフトはどんどん出てくるし、バージョンアップも早い。それを使うと何ができるのかを事前に予習しておく、そういうクセをつけておけば、常に視線を先に向けていられるはずです。

グレゴリ·ジェルメンさん

卒業生/レコーディングエンジニア Gregory Germain(グレゴリ·ジェルメン)さん

profile

フランス生まれ、パリ育ち。日本の文化にあこがれて10代の頃からジャンルを問わず日本の音楽シーンを聴きまくる。20歳で来日。レコーディングエンジニアを目指し本校へ入学。卒業後、スタジオグリーンバードでアシスタントとして様々のメジャーアーティスト、バンドの作品に参加。3カ国語オペレーターとして海外アーティスト、プロデューサーのセッションにも参加。 2011年からDigz, Inc.に入社。スタジオ専属エンジニアとして活躍中。

副校長 池村 雅彦先生

副校長 池村 雅彦先生

profile

本校副校長。一口坂スタジオという日本でトップクラスのレコーディングスタジオのレコーディングスタッフとしてエンジニアのキャリアをスタートさせ、多くの著名アーティストのレコーディングセッションに参加した。その後、ビクターエンタテインメントの青山ビクタースタジオに移籍。以前から交流のあった「サザンオールスターズ」をはじめ、アイドル全盛時代の「小泉今日子」「荻野目洋子」から「超時間要塞マクロス」等アニメのアルバムまで幅広いジャンルのレコーディングを担当した。