Saucy Dog(卒業生)(ギターヴォーカル 石原慎也さん、ベース 秋澤和貴さん) × 渡辺敦子(副校長)

バンドで頑張ろうと思えたのは
渡辺敦子先生のおかげです

 本校在学中には別々のバンドだった石原慎也さんと、秋澤和貴さん。その後石原さんのバンドはメンバーが抜け、秋澤さんを誘ってSaucy Dogがリスタートしました。当時から彼らを知る副校長の渡辺敦子先生は、人気上昇中のSaucy Dogを優しい瞳で見守っています。ひたむきにバンド道を走る2人の背中を、渡辺先生は押してきたのです。

挨拶の大切さを学校で学び、
メンバー内でも欠かしません

渡辺:この学校の思い出と言われたら、何が思い浮かぶ?

秋澤:ベースの先生が、めちゃくちゃ厳しかった!(笑)1週間に一度、好きな曲の譜面を自分で書いて、コードもキーも全部採って、音符通りに弾くという課題があって。先生はさすがプロで、一発で「音符はこうなっているけど、音が違ったよね?」と指摘されました。当時は怖いと思っていたけど、プロになってみるともっとうまいベーシストは山ほどいて。学校でちゃんと学んでおけばよかったと思いましたね。

渡辺:厳しい先生の指導を受けることは、実はいい経験なんだよ。なぜなら音楽業界には、良くも悪くも個性が強い人が多いので。

秋澤:ああ、確かにそうです。

渡辺:この業界に入るとびっくりするようなことを言う人にも出会うから、社会勉強の1つだと思えるはず。

秋澤:確かに、実感しています。

Saucy Dog

石原:僕は最初にギターコースに入学したんですけど、すぐバンドを組むことになり、そこで「歌って」と言われた曲が歌えなくて。あまりに悔しくて、ヴォーカルコースに転コースしました。やりたいことをやらせてもらえてありがたかったです。

渡辺:すぐにコースを変更したの?

石原:はい。それまで歌の経験がなかったので、ヴォーカルの基礎はこの学校で学びました。特にストレッチや身体の使い方は、とても勉強になりましたね。今もその知識は役立っています。

渡辺:音楽に限らず、基礎は全てにおいて大切だから。ベーシックなところに個性をプラスすることが理想だよね。

石原:土台があると、個性がより際立つんですよ。それと基礎という意味では、挨拶の大切さを教えてもらったことも大きいです。仕事の時に挨拶を返してもらえないと、ちょっと嫌な気持ちになるので、本当に大事なんだなって。

秋澤:僕らはメンバー内でも挨拶を欠かさないもんな。挨拶の一言で、なんとなくメンバーの調子もわかるんですよ。

渡辺:そういうことを読み取る力も養われるんだね。

石原:この学校で僕は本当に、敦子先生にはお世話になりました。前のメンバーが抜けることになったとき、すごく親身になって話を聞いてもらって …… 。メンバーが抜けても「頑張っていこう」と思えたのは、敦子先生に背中を押してもらえたことが大きいです。

渡辺:解散やメンバーチェンジなどで落ち着かないバンドは多いからね。音楽をやりたい人は個性が強いことが多いから、お互いを認め合うことが難しかったりするの。そういうときにちょっと話を聞いて、調整役を務めることも先生ができることの1つかなって。Saucy Dogも、秋澤くんが以前組んでいたバンドも、すごくいいものを持っていて期待感が高かったから、頑張ってほしいと思っていたのよ。石原くんはすごく華があるのに、意外と本人は気づいていなくて、割と悩みがちなタイプだったんだよね。

石原:「僕はこのままでいいのだろうか」と思うことが多かったです。だからこそ敦子先生が言ってくれた「華がある」という言葉は、自信になりました。

渡辺:あと詞にも個性があったな。信念さえ曲げずに続けていけばいい時期が来ると思ってた。だからポジティブなオーラを、石原くんに注いでいたの。今も続けていてくれてよかったなと思うよ。

最後に持ってきたバラードが、
会場の空気を変えた

Saucy Dog

渡辺:Saucy Dogは、どうやってデビューが決まったの?

石原:僕がいろんなオーディションやコンテストに応募していたんです。

秋澤:応募していることを僕は知らなかったから、石原に「決勝に進んだ」と言われて、「何のこと?」って(笑)。決勝は、少し怖い雰囲気だったよね。

石原:誰もヘラヘラしていなくて。

秋澤:「えっ、ヤバイ」となった。でも自分のなかでは、バンドを始めたころから「絶対にいける」という根拠のない自信があったので、オーディションも絶対に受かると思っていました。

渡辺:根拠のない自信って、実は大事だよ。私もプリンセスプリンセスのときに、売れていないころから「絶対いける」と思っていたもの。

秋澤:オーディション自体はめちゃくちゃ緊張したけど、3曲演奏したあとに『いつか』という曲をやったんです。

渡辺:『いつか』、いい曲だよね。

秋澤:そうしたら、場がすごく静かになって。最後に審査員から各バンドに講評があるんですけど、かなり辛辣で。

石原:「僕らも言われるんだろうな」と身構えていたんです。

秋澤:ところが僕らだけ「他にはないものがある」とホメてもらえて。

石原:アップテンポの曲を続けて、最後にバラードの『いつか』を演奏したんです。その構成を「いい意味で裏切られた」と言ってもらえました。

渡辺:バラードってごまかしが利かないから、危険度も高いのよ。きっと、出来がよかったんだと思う。

石原:当時、めちゃくちゃライブをやっていたんですよ。メンバーが今の3人になり、月に10本くらいライブをこなして、自信がつき始めていたこともよかったんだと思います。

秋澤:あのころ、キツかったもんね。

石原:炊飯器持参でツアーを回ったり。

渡辺:炊飯器?

石原:お金がないから、ツアー先で自炊するんです。車の中で寝ていたし。

渡辺:私たちもガールズバンドなのに自分でベースアンプを運んだり、食べものをみんなで分けたりと、下積みを経験したの。そうすると「同じ釜の飯を食う」みたいな感じで、公私ともども "バンド力" が高まるんですよ。

石原:確かに、あの経験があってよかったなと思います。下積みって、「何がなんでも売れたい」と思っていたからできたことなんだろうな。

Saucy Dog × 渡辺 敦子さん

秋澤:「売れたい」を超えていたよね。「一生音楽を続けていたい」という思いでやっていたから。

渡辺:そういう意識がないと、「自分たちはどこに向かって進んでいるんだろう」となっちゃうものね。そういう共通のベクトルがあったのは大きいと思うな。2人にはその意識があるし、ちゃんと時代の流れも読んでいるから、これからがもっと楽しみだよ。

デビューしたいなら、
チャンスの分母を増やそう

渡辺:バンドのプロを目指す高校生が一番聞きたいのは、「どうしたらデビューできるか」なんだって。

石原:チャンスは広げるべきだと思う。分母が多いだけ、チャンスは増えるから。まずは自分のやりたいことを広言すること。あと僕の経験で言うと、「A4用紙に経歴を書いて送ってください」というオーディションに、僕はA2サイズのめっちゃデカい紙に「Saucy Dogです!」とデカデカと書いたり、「絵も描けます!」とイラストを一緒に描いて送ったりしていたんです(笑)。

秋澤:それで通ったんだもんね。

石原:うん、インパクトが大きかったみたい。あと「オリジナルを1曲、送ってください」というところに、録ってあった曲を全て送ったり。

渡辺:掟破りなところがいいよね。本気度が伝わるというか。

石原:「何がなんでも」感がよかったのだと思います。

秋澤:僕も同じ疑問を抱えていたけど、言えるのは、目の前にあることをがむしゃらにやる、目標をブレさせない。それとデビューするために必要なことを、ちゃんとした人から聞く。デビューをするためにどうすればいいかを、常に考えていることが大事かな。

石原:否定的な言葉には、あまり耳を貸さないほうがいいよね。自分の信じていることは、貫き通したほうがいい。「おまえ、どうせ売れないよ」と言われることもきっとあるだろうけど、そんな言葉は聞かなくていい。

秋澤:ただ、意識をそこまで持っていくのが難しいんだよね。いろんな人からボコボコに言われるし。僕もバイト先で「売れるわけねぇよ」と言われて、「やってないのに言うなよ」と思った。

石原:ホンマにね。

秋澤:今でも思い出すくらい悔しかったけど、「誰に言われようが気にしない」という不屈の精神は必要だよ。

渡辺:うん、大成する人はまず意識と行動が違う。だいたいの人が口だけで行動しなかったり、すぐに諦めちゃったりするの。Saucy Dogは「継続は力なり」のごとくやり続けたし、石原くんはちゃんと発信していたでしょう?

石原:はい。

渡辺:それに音楽業界をかじっていない人はどんな世界か見えないから、マイナス要素が先に浮かぶ。でも私の周りで夢を叶えた人は、どれだけネガティブなことを言われようが自分を貫き通した人ばかり。プリンセスプリンセスだって結果的には売れたけど、最初はダメなバンドだったからね。

石原・秋澤:いやいや!

渡辺:本当なのよ、すごい才能のある人はいないんだもの。メロディメーカーで耳がいい(岸谷)香くらいかな。実際に有名でも、意外と普通の人っているでしょう? 貫き通してきた結果ですよ。あとはプラスの言葉を取り入れること、感謝を忘れないことが大事。

石原:感謝は、本当に大切ですね。

渡辺:君たちが成長していて、心からうれしいよ(笑)。

このバンドを始めてから、
「一生音楽で食べていく」と思っています

渡辺:2人はずっとバンドを組み続けているけど、バンドの魅力はどんなところにあると思う?

秋澤:生き物みたいですよね。例えばメンバーが1人替わっただけで、音が違う。ずっと同じメンバーで続けていると、曲の説得力が違ってくる。そういうところが面白い。

石原:音楽は1人でもできるし、バンドである必要はないかもしれない。でも僕はバンドをやりたいとずっと思っていたから、メンバーが脱退しても他の人と組もうと考えました。1人より、みんなで喜んだほうが楽しいから。

秋澤:ステージでメンバーと目を合わせたときに「今、同じ気持ちになっている」と感じる瞬間があるんですよ。その空気感はお客さんに伝わるし、「3人でやっていることがたくさんの人を感動させている」とうれしくなります。バンドをやっていて最高の瞬間ですね。

Saucy Dog

渡辺:アーティスト活動をしていて、感動したことはある?

石原:去年、初めて夏フェスに出たんですけど、緊張しすぎて『いつか』の歌詞が飛んじゃって。するとお客さんが僕の代わりに歌ってくれたんです。めちゃめちゃうれしかったですね。

秋澤:僕が個人的に一番覚えているライブは『COUNTDOWN・JAPAN』。6千人も入る会場だし、僕らの前のバンドもめちゃくちゃ盛り上がっていたから、ちょっと不安だったんです。でも規制がかかるくらいお客さんが入った上にすごく盛り上がって、その年で一番いいライブになりました。それでツイッターのフォロワーもめっちゃ増えたし。

石原:結果を形にすると、そこだね(笑)。

渡辺:そんな2人が描いている夢は?

石原:僕はアリーナツアーです。アリーナ2DAYSをソールドアウトできるようになったら、うれしいな。あとは親孝行。家をリフォームしてあげたり、旅行に連れて行ってあげたいですね。

秋澤:このバンドを始めてからずっと思っているのは、一生音楽をやり続けること。できれば音楽だけで飯を食っていけるレベルで居続けたいです。

渡辺:私はバンドで復興支援を始めたけど、1人じゃできなかったと思うの。5人のメンバーが揃い、音楽とバンドの力があって、そしてファンのみなさんやスタッフがいたからこそできたこと。人は寄り添って生きていくものだと東日本大震災で実感したし、今この瞬間をどう生きるかを大切にしなきゃいけないと思う。瞬間を大切にして、感謝を忘れずに生きていけば、Saucy Dogはもっと大成できると思うから、頑張ってほしいな。

石原・秋澤:ありがとうございます!

石原 慎也さん サイン

ギターヴォーカル 石原 慎也さん

ギターヴォーカル 石原 慎也さん
秋澤 和貴さん サイン

ベース 秋澤 和貴さん

ベース 秋澤 和貴さん

Saucy Dog

profile

2013年西日本各地出身のメンバーが大阪で結成した、3ピースギターロックバンド。メンバーチェンジを経て2016年度MASH A&RのオーディションでGP受賞。代表曲「いつか」のMVは再生回数510万回を突破、収録ミニアルバム「カントリーロード」はロングセールス中。Vo石原の「言葉・メロディ・声」の3要素が最大の魅力。2018年スペシャ列伝ツアーや各地のフェスにも抜擢。同年5月23日には2nd mini Album「サラダデイズ」を発売、同5月から全国11箇所を回る初ワンマンツアーを開催・全日SOLD OUT。さらに、秋から開催される「ワンダフルツアー2018」は全国25箇所を回る自身初のロングツアーとなり、ツアーファイナルは12月14日赤坂BLITZにて開催。

副校長 渡辺 敦子先生

副校長 渡辺 敦子先生

profile

プリンセスプリンセスのリーダー兼ベーシストとして、『M』『DIAMONDS』『ONE』など、数々の名曲を世に送り出した。現在は音楽プロデューサーとして活動し、本校副校長も務めている。2012年プリンセスプリンセスを再結成。