松岡充先生(名誉教育顧問) × 中嶋イッキュウさん(卒業生)

学生時代の自分に、
「正しい!」と言ってあげたい

 「とにかくバンドがやりたい!」と本校に進学した、tricotのギターヴォーカル中嶋イッキュウさん。そんな彼女と、名誉教育顧問の松岡充先生の間には、時代は違えど通ってきた道に意外な共通点がありました。プロになって数年後、学校の授業で使ったノートを役立てた2人。音楽に対する向学心は、いつだって尽きないのです。

兄が持ち帰ったパンフレットを見て、
この学校に決めました

松岡:中嶋さんは何年に卒業しましたか?

中嶋:2007年です。11年前ですね。

松岡:プロミュージシャン科ですか?

中嶋:プロミュージシャン科の、バンドヴォーカルコースでした。

松岡:その前からバンドをやってたの?

中嶋:滋賀の高校で、軽音楽部に入っていたんです。そこでバンドをいくつか組んでいて。

松岡充先生(名誉教育顧問) × 中嶋イッキュウさん(卒業生)

松岡:昔からギターヴォーカル?

中嶋:ずっとヴォーカルで、tricotの結成からギターを弾き始めました。

松岡:バンドをやってみようと思ったきっかけは、何ですか?

中嶋:物心がついた時から歌手になりたいという思いがあったんです。本格的に人前で歌いたいと思ったのは、モーニング娘。さんを見たのがきっかけでした。後藤真希さんの加入に衝撃を受けて、どっぷりハマって。オーディションに応募したこともあるんです。

松岡:アイドルからバンドという路線変更は珍しいね。何がそんなに中嶋さんを夢中にさせたんですか?

中嶋:私が入った軽音楽部は滋賀県内で有名でした。ヴォーカル志望者が7人もいて、部活に入るためのオーディションがあったんです。それに落ち続けたんですけど、最後に受かって。

松岡:そんなにオーディションを受けたの!?そのガッツはすごい!

中嶋:でも落ち続けたくらいヘタだったので(笑)、部活でレベルアップするのが楽しかったんです。「うまくなったね」と言われるようになる過程が楽しくて。

松岡:当時から、今のtricot を彷彿とさせるような音楽だったの?

中嶋:全然違いましたね。もっとポップで、ちょっとコミックバンド寄りでした。

松岡:そして高校3年になるわけだけど、進路はどうやって決めましたか?

中嶋:実は、兄がこの学校のPAエンジニアコースに通っていたんです。兄がもらってきたパンフレットを見て、中3の時には進学先を決めていました。

松岡:この対談は、そのパンフレットに載るからね。中嶋さんみたいに、この記事を読んで「通いたい!」と思ってくれる人がいるといいなぁ。

中嶋:兄のおかげで、音楽の専門学校があることを知りました。オーディションに受からないと芸能界に入れないと思っていたので、学校で段階を踏んで勉強していけることが嬉しかったです。

松岡:僕の時代は大阪校しかなかったけど、今やこの学校は札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・神戸・福岡にあるから、かなり通いやすくなってるしね。しかも、アメリカのバークリー音楽大学に編入できる!

中嶋:えーっ、いいなぁ!

松岡:僕は以前、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』というミュージカルで主演したんだけど、その中で僕が演じた主人公は「バークリーを卒業した」とウソをつくんです。すると金持ちの家族が手のひらを返してもてなしてくれる、というシーンがあって。やっぱり“世界のバークリー”なんですよ。そんな名実ともに世界的に著名な学校とパートナーシップを締結している日本の専門学校は、うちだけだと思う。本校で2年間学んだ後に編入して残りの2年間を通うと、バークリー音楽大学卒業生になれるってこと。

中嶋:いいなぁ、うらやましい!

学生時代のノートが今、
役に立っています

松岡充先生(名誉教育顧問) × 中嶋イッキュウさん(卒業生)

松岡:バンドヴォーカルコースには歌がうまい子も、プロになろうという意志の強い子もいたでしょう。ご自身はどのポジションにいると感じていました?

中嶋:自分のことをうまいと思えなかったので、ずっと「頑張らなきゃ」と考えていました。だから授業は、とにかく休まず全部受けましたね。歌う授業はすごく楽しかったんですけど、音楽理論みたいな座学は、内容をあまり覚えられなくて(笑)。

松岡:わかります。僕も中嶋さんと同じように、一応ノートは取っていたけどポカンとしていたと思う(笑)。ただ僕はね、デビューして10年くらいの時にグランドミュージカルに挑戦することになったんです。「この楽曲を期日までに覚えてきてね」と、まず10センチの厚さの楽譜を渡されるわけですよ。バンドマンだった僕は、楽譜なんてちゃんと読んだことがなかった。それでもう一度勉強し直して、ふと思い出すんです。

中嶋:「この言葉、なんか聞いたことあるぞ」となったんですか?

松岡:そう。授業中に書き留めておいたノートを引っ張り出してきてね。

中嶋:私も最近、引っ張り出しました(笑)。

松岡:あるよね(笑)。読み返してみて気づくんだけど、一度自分の字で書いているから「あっ、わかる!」となる。今後入学してくる人達も、僕らと同じように授業でポカンとなることがあるかもしれません(笑)。でもちゃんと受けて、本当に大事にしていれば、いつか役に立つ宝物になります。

中嶋:習ったことをいつ使うようになるか、わかりませんものね。

松岡:そうそう。僕も最初は「ここに入れば、全部教えてくれるんだ」と思っていたところがありました。でも学校は、そのきっかけをくれるところで自分で切り開かなきゃいけない。正解のない文化だからこそ、何百年も続いているんだと思うし。

中嶋:そう思います。私がノートを引っ張り出したのは、tricotでギターを始めたからでした。学校に通っていた時はギターを弾いたことがなかったので、コードについて勉強しても「??」という感じだったんです。最近は曲も作るようになったので「もう一回、理論を調べてみよう」と実家に置いてあったノートを持ってきました。当時は「勉強しなきゃ」と思いながらも、結果的にはメモにしかなっていなかったんですが、今はちゃんとした記録として読み返せるのでありがたいです。

歌う場があるだけで、
すごく幸せなんです

松岡:学校での日々は、嵐のように過ぎ去った2年間だったと思いますが印象に残っていることは?

中嶋:当時あった『アーティスト・ショーケース』というオーディションが印象的というか、頑張ったなという記憶です。

松岡:何年生の時に出たの?

中嶋:2年とも出たのですが、1年目は組んでいたバンドで、2年目はそれが解散したからソロで出ました。

松岡:どんなことをやったんですか?

中嶋:学校のライブホールで演奏して、その中で選ばれた人が大きなライブハウスでやれるんです。1年目は大阪厚生年金会館(現オリックス劇場)、2年目はなんばHatchでやりました。

松岡:なんばHatchは、SOPHIAがこけら落とし公演をやったんです。

中嶋:えーっ、すごい!

松岡:しかも大阪厚生年金会館の最多公演を記録したのもSOPHIAで。そのステージに学生のうちに出たんだね。

中嶋:はい。1曲だけ演奏させてもらえるんですけど、勝ち負けがあるだけにメンバーが一丸となったことが、今でもいい思い出です。

松岡:そんな中嶋さんが卒業してtricotのメンバーと出会ったことで、自分の音楽性を見つけたんですか?

中嶋:ソロ名義で出た『アーティスト・ショーケース』の2年目は、高校時代のバンドメンバーと先輩が混ざっていたんですけど、その先輩とtricotを組んだんです。音楽性は、「なんでこんな風になったんやろ」と思っています(笑)。

松岡:でも、そこが評価されているところでもあるよね。聴かせてもらったけど、やっぱり特異ですよ。印象も含めてキャッチーだし、かと思えば「かかってこいや!」とかMCで言うし(笑)。

中嶋:すみません(笑)。

松岡:いやいや、そこも魅力なんだよ。いろんな魅力が評価されたからこそ、みんな応援したくなるんだと思う。このスタイルは、どうやって見つけたの?

中嶋:tricotの前に組んでいたバンドのほうがもっと複雑で、変拍子や変なコードをよく使っていたんです。京都や滋賀には、そういうバンドが多いんですよ。

松岡:でも、最初は歌いたいというところから始まった女の子が行き着くところにしては、ちょっと変わっているよね(笑)。「もっと普通に進行する、盛り上がりのある歌を歌いたい!」という気持ちはなかったの?

中嶋:歌う場があるということが、すごく嬉しかったんです。メンバーが見つからなかったり、1人になったこともあったので、自分と一緒にバンドをやってくれる人がいるだけでも幸せで。

松岡:謙虚ですね。今は海外ツアーもやっているし、伝説的な国内フェスはほぼ網羅したでしょう。学生だった頃は「この先、どこに向かうんやろう」と悩んだこともあったと思うんです。当時の自分に、何と言ってあげる?

中嶋:「正しい!」と言ってあげますね。学生時代は本当に、めっちゃ頑張っていたんですよ。友達と遊んではいたけど、授業を休むことはなかったので。

松岡:これから入ってくる学生にとって、お手本になれるいい先輩だ(笑)。

「これだ!」という道を見つけたら
突き進んでもらいたい

松岡充先生(名誉教育顧問) × 中嶋イッキュウさん(卒業生)

松岡:中嶋さんから、未来の音楽業界を目指す方たちになにか言葉を贈るとしたら?

中嶋:今、SNSやYouTubeですごい人を簡単に見つけられるじゃないですか。同世代なのに、自分よりめっちゃすごい人を見ちゃって、「私には無理」と諦める人もいるのかなと思うんです。狭いコミュニティの中で一番になるのもすごいことなのに、もっと目立つ同世代の人を簡単に見つけられてしまう今の状況が、可能性を狭めている気がします。

松岡:確かに。すごい人を見てしまったら、何もせずにして尻込みしてしまうかもしれないし、SNSには良いところしか表に出さないから。だからすごい人を見ても諦めず、前を向いてもらいたいよね。

中嶋:はい、そう思います。

松岡:僕らはヴォーカルだけど、中嶋さんがさっき言ったとおり、メンバーがいないとバンドを組めない。プレイヤーになりたい人もこの対談を読んでくれていると思うのですが。

中嶋:私は本当にバンドという形態が大好きで、仲間とやりたい気持ちが強かったんです。でも中には、個人プレイヤーとして活躍したいという人もいますよね。ミュージシャンは孤独なほうがカッコよく見える時もあるので(笑)、「俺はこれだ!」という道が見つかったら、突き進んでいくといいんじゃないかな。

松岡:バンドって、ヴォーカルがフロントマンとして立ち、ギターとベースが横に、ドラムが後ろにいるのが基本のスタイルだけど、これは序列じゃない。仲間がいることは、最大の魅力であり武器だと思うんですよね。中嶋さんは「メンバーがいてくれるだけで幸せ」と言っていたけど、その経験があったからこそ、今のtricotがあると思います。

中嶋:うん、そうですね。

松岡:「1人だけじゃできないことを、仲間がいたからここまでできた」という道は、僕ら2人が実証済みです。バンドという仲間はすごく強力な存在で、あなたの大きな武器になりますよ。

中嶋 イッキュウさん サイン

卒業生 中嶋 イッキュウさん
(tricot ギターヴォーカル)

中嶋 イッキュウさん

profile

「このメンバーなら凄い事が出来る(絶対)!」と確信し、2010年9月1日、中嶋イッキュウ(Vo&Gt)、キダモティフォ(Gt&Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(Ba&Cho)の3人でtricotを結成。直後に自主レーベル、BAKURETSU RECORDSを立ち上げる。ぶっちぎりの演奏力と圧倒的なライブパフォーマンスには定評があり、FUJI ROCK FESTIVAL、ROCK IN JAPAN、京都大作戦などの大型フェスにも数多く出演し注目を集める。2014年7月にはヨーロッパツアー、翌年10月には北米ツアーを実施。2017年5月に3rdフルアルバム「3」を日英米同時リリースし、国内47ヶ所とヨーロッパ14ヶ所のリリースツアーを敢行。国内のみならず海外でも注目度が急上昇中のロックバンド。

松岡 充さん
松岡 充さん サイン

卒業生/名誉教育顧問 松岡 充さん

profile

1994年にロックバンド「SOPHIA」を結成。1995年メジャーデビュー。シングル40枚、アルバム20枚をリリース。約200曲に及ぶ全楽曲を作詞し、「街」をはじめ多くの代表曲を作曲。2013年8月、日本武道館公演をもってバンド活動を休止。近年は俳優として目覚しく活動し、映画・舞台・ミュージカルに数多く主演。代表作には「人にやさしく」(CX)「山田太郎ものがたり」(TBS)、Vシネマ「仮面ライダーエターナル」、舞台「キサラギ」、浪漫活劇「るろうに剣心」など。また、ニコニコ生放送ではメジャーアーティストとして約10年間もレギュラー番組を担当。ヴォーカリストというカテゴリーを超え、多彩な分野で活動するクリエーターアーティストである。現在は、新バンド「MICHAEL」で活動中。